コイル電流にブレーキを掛けろ
コイル電流が回路の抵抗によって減衰するのを待つのではなく、積極的にブレーキを掛けようとすれば2つの問題が立ちはだかる。
1)スイッチング素子
サイリスターのように一度ONにしたら電流が無くなるまでOFFにならない素子に比べると、任意にOFFに出来る素子は性能が劣る。つまり、より大型のスイッチング素子が必要となる。
これに関してはIGBTがお薦めである。特にストロボ用はパルス耐電流が大きく、素子を小型化出来る。ただし、ストロボ用は耐圧が低い(400V止まり)。
2)サージ
コイル電流が残っている状態でOFFにすると、サージ電圧が発生する。スイッチング素子として有用なストロボ用IGBTは耐圧が低く、サージに耐えられない。汎用IGBTで高容量高耐圧の品は非常に大きく、ラジコン搭載は非現実的である。
ちょっと考えると、コイル電流を止めるのは容易に思える。
フライホイールダイオードD1と直列にR1を挿入すれば、ぐるぐる回るコイル電流がR1で急激に消費されるだろう。
ところが、そうは問屋が卸さない。
R1に電流が流れれば、R1の両端に電位差が生じる。
そのため、D1が導通しなくなり電流がC1の方に行ってしまうのだ (見落としがちです)。こうしてC1が逆極性に充電されてしまう。
この問題に対処するため、IGBTなどOFF機能を持ったスイッチング素子を使用する。電流浪費ループを隔離するのだ。
IGBTがONになりC1が放電した後はD1がフライホイールとなる。続いてOFFにすると、電流はD2とR1でループを作りR1で急激に消費される。
しかしこれも、サージから逃れることは出来ない。R1に電流が流れれば、R1の両端に電位差が生じる。結果として、IGBTにサージ電圧が加わってしまう。
R1を大きくするほどサージ電圧は高くなる。かと言ってR1を小さくすればブレーキが掛かり難くなる。
バリスター等を設置することでサージを吸収することは出来る。だが、バリスターは非常用である。耐久性が無いのだ。
バリスターやアレスターは、落雷のように頻度が小さく、回路自体の責任ではないサージを想定している。発射の度に毎回発生するようなサージを想定していない。
バリスターで臭い物にふたをすれば、耐久性に欠けたコイルガンが出来上がる。
やはり、元から断たねばならない。特別な外的要因が無い限りサージが発生しない回路を設計すべきなのだ。
そもそもコイルガン製作の目的はラジコン戦車への搭載である。それを忘れてはならない。サージを撒き散らすような回路をラジコンに搭載出来ますか?
回生型回路
サージを元から断つブレーキング回路。それが回生型である。コイル電流を消そうとするからサージが発生するのだ。だったら、コイル電流を消さずにコンデンサーに回収すれば良い。エネルギーの有効利用にもなるが、目的は省エネではなくサージ抑止である。
IGBTなどOFF機能のあるスイッチング素子を2個使用し、ハーフブリッジを形成しておく。更に、整流ダイオードをタスキ掛けに設置する。
2つのスイッチング素子は、ONもOFFも同時に行う。最初は両方ともOFFとなっている。
両方ともONになって初めて、コイルに通電される。
コイルに流れている電流にブレーキを掛ける場合、IGBT1とIGBT2を同時にOFFにする。
しかし現実には、完全に同時にスイッチングするのは無理である。僅かな時間差が発生するものだ。この回路では、時間差があっても全く問題ではない。
もしIGBT2が先にOFFとなり、IGBT1だけがONのままだとどうなるか?
D1が導通し、フライホイールを形成する。サージは発生しない。
逆にIGBT1が先にOFFとなり、IGBT2だけがONのままだとどうなるか?
D2が導通し、フライホイールを形成する。サージは発生しない。
IGBT1とIGBT2が両方ともOFFになれば、D1とD2の両方が導通する。
コイル電流はC1に回収される。サージは発生しない。
この状態は、LC共振にほぼ等しい。
コイル電流はLC共振とほぼ同じパターンで減衰する。違うのは、C1の充電極性が反転しない点である。
どのようなタイミングで素子がスイッチングしてもサージを発生させず、余ったエネルギーは同極性で戻って来る。そのままC1を継ぎ足し充電して次弾を撃てる。
回生型をシミュレーションした一例。赤がコンデンサー電圧の変化、緑はコイル電流の変化。フライホイール任せの青いグラフがダラダラと残り続けるのに対し、回生型はコイル電流が急速に消滅する。
330V400μFのコンデンサーを使用してパチンコ玉を射出する場合、コイルピストルのように単純なフライホイール型では約0.5ジュールのパワーとなった。これに対し、回生型でコイル電流に急ブレーキを掛けると、約0.7ジュールにパワーアップされた。
多段式の更なる意味
プロジェクタイルの速度を上げる条件を、今度は物理の教科書的に整理してみよう。
1)速度とは、加速度を積分したものである。
2)コイルガンでプロジェクタイルを一定とした場合、加速度は磁力の吸引力に比例する。
3)磁力の吸引力は、磁場の強度差(勾配)に比例する。
以上より、速度は磁場の強度差を積分したものに比例する。これは磁場の最大強度に他ならない。
要するに、最大磁場が大きくなるコイルを作れば、弾速は上がる。磁場の強度差(勾配)のパターンは無関係。
・・・という結論は成立しない。なぜなら、重大な条件が抜けているのだ。
4)磁場の強度差(勾配)は、コイル電流に比例する。
ただし、コイル電流一定における磁場の強度差(勾配)のパターンは、コイルによって決定している。
厄介なことにコイル電流は時間と共に変化する。プロジェクタイルの位置すなわち磁場の強度差を大きくしたい位置もまた時間と共に変化する。コイル電流が大きなタイミングで、プロジェクタイルが磁場の勾配パターンの急な部分を通過するようにすれば、パワーアップする。それは、クチで言うほど簡単ではない。
単段式コイルガンではコイルは与件であり、磁場の勾配パターンが急な部分も決まっている。そこをプロジェクタイルが通過するタイミングとコイル電流のピークを合わせる程度しか工夫の余地が無い。しかも、両者を合わせる設計自体が単段式では困難。
磁場の勾配パターンが急な部分はコイル端であり、プロジェクタイルの初期位置付近でもある。つまり、発射直後に通過してしまう。コイル電流は急には増えないため、どうしても発射直後のコイル電流は小さいままだ。
これに対し、多段式コイルガンは複数コイルの電流比を変化させることにより、磁場の勾配パターンが急になる位置を移動出来る。この位置をうまくプロジェクタイルの位置と合わせ続けられれば、遙かに大きな速度が得られる。
合成磁場
小学校の理科。棒磁石を2本くっつけると、どうなるか?
S極とN極が互い違いになった長い磁石になるのではなく、磁極の分離した長い磁石になる。もちろん誰でも知っている常識だ。
では、永久磁石の代わりに電磁石を使えばどうだろう。もちろん結果は同じ。
ならば、電磁石としてコイルガンのコイルを用意してみよう。
コイル1個に電流を流すと、発生した磁場の中心はコイルのセンターになる。コイルを2個並べて両方に同じ電流を流すと発生した磁場の中心は、2個のコイルを1個の長いコイルとみなしたそのコイルのセンターになる。
さて、電磁石は永久磁石と異なり、流す電流の大きさを変えることで磁力の強さを変えられる。コイルを2個並べて両方に違う大きさの電流を流せばどうなるか?
左側のコイルに大きな電流を流せば、磁場の中心は左に偏る。右側のコイルに大きな電流を流せば、磁場の中心は右に偏る。左右のコイルに流す電流の大きさを変えることで、磁場の中心を滑らかに可変出来るのである。これは、コイル1個ではマネ出来ない。
多段式コイルガンにおいて、常に複数のコイルに電流を流すようにすれば、磁場の中心を滑らかに移動出来る。これは、単段式では不可能な効率アップの手段である。磁場の中心を常に最適位置にキープ出来れば、n個のコイルで単段のn倍を上回るパワーが出せる。